【INTRODUCTION】

『色道四十八手 たからぶね』Treasure Ship: Latitudes of Lust (Shikidō shijū hatte: takarabune) 1962年、小林悟監督『肉体の市場』(大蔵映画配給)が警視庁に猥褻容疑で摘発される。以後、独立系会社による低予算の成人向け映画が〈ピンク映画〉と称され、斜陽にあった日本映画界を立て直す大きな産業として急成長する。そして、反社会、反体制といったメッセージ性を掲げた若松孝二のアヴァンギャルドな作品群を筆頭に、若者からの熱狂的な支持を集め、メジャーの日本映画とは違ったパワーと魅力で映画的な評価も高まる。
渡辺護、中村幻児、高橋伴明、井筒和幸、滝田洋二郎、廣木隆一、周防正行、黒沢清、瀬々敬久、いまおかしんじなどが監督デビューし、若手作家が巣立つ場所としても、大きな役割を担う。また、白川和子、宮下順子、大杉漣など、ピンク映画を起点として成長を遂げた俳優も少なくない。 製作本数、専門館も減少し、ピンク映画が末期的な状況であることは否めないが、日本映画に唯一残されたプログラム・ピクチャーとして、作家性、娯楽性に富んだ良質な作品が現在も生み出されている。
ピンク映画半世紀の歴史は、紛れもなく日本映画を活性化させた大きな存在であり、ポルノというブランドに隠された「もう一つの日本映画史」である。
『色道四十八手 たからぶね』Treasure Ship: Latitudes of Lust (Shikidō shijū hatte: takarabune) 黎明期から業界を支え、約200本の作品を撮りあげた巨匠・渡辺護監督が「四十八手」「春画」という日本独特のエロティシズムを題材に本作を企画。25年に渡りピンク映画専門誌の発刊、ピンク映画のアカデミー賞といわれる〈ピンク大賞〉を主宰する「PG」と関西を拠点に月刊でフリーペーパーの発行やイベントを企画する「ぴんくりんく」というピンク映画ファン有志が、2012年の〈ピンク映画五十周年〉を記念し、自主制作という形で本作の映画化に挑み、2013年秋、クランクインに向けての準備がスタートした。
ところが、渡辺監督は製作準備中に病に倒れ、自宅での療養中に他界される。「井川に撮って欲しい」という渡辺監督の意思を受け、近年の渡辺作品の脚本家であり、渡辺監督の長編ドキュメンタリーを完成させた井川耕一郎が初めて商業映画でメガフォンを取り、二組の夫婦をめぐる愛と欲望を軸に、シュールな味わいたっぷりに人間の本質をユニークに浮かびあがらせる作品に仕上げた。

ヒロイン役には、2012年にピンク映画デビューを果たし、同年の〈ピンク大賞〉にて女優賞&艶技賞のダブル受賞という快挙を成し遂げ、現在のピンク映画界で最も期待される女優・愛田奈々。そして、佐々木麻由子、ほたる、岡田智宏、なかみつせいじ、野村貴浩という、近年のピンク映画を支えるベテラン俳優陣が顔を揃え、濃密なエロティシズムを体現している。

35ミリフィルム撮影という映画づくりにこだわり、業界が誇るスタッフ・キャストが結集し、ピンク映画への熱き思いにあふれた、五十周年というアニバーサリーに相応しい本格エロス作をつくりあげた。

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