2002.9.30(月)

オーピーのゲイ映画『恋する男たち』映倫試写。さいわい映倫の先生方にも好評でホッとする。完成品見るの2回目だが、やはり今回のヤツ、いいと思う。2つの話のオムニバスなのだが(2つの話は、あることで一瞬、というか、時間的には一瞬ではないのだが、ともかくリンクする。それは見ての楽しみね)、ひとつでは女性が男の主役と同比重という重い役で登場(河村栞)。もうひとつでは赤ん坊がほぼ全編に渡って泣き続けているという、いずれもかつてのゲイ映画、成人映画では無かったと思えるアイデアの投入もかなりうまくいったと思えるのだ。
公開は来年の正月。上野世界傑作劇場。1月18日(土)には舞台アイサツの予定もある。みなさん、ぜひとも見て下さい。

ところで今現在、上野オークラで公開中のオレの新作『デリヘル嬢 絹肌のうるおい』の評判がすこぶるいいですよと、先日の『恋する男たち』の打ち上げの時、石動三六氏から聞かされていたのだが、m@stervisionという人のホームページに出ていたという批評が石動さんからFAXされてきた(オレはパソコン持っていないし、扱うことも出来ないしで、残念ながら自分で見ることは出来ないのだ)。
一読。非常に鋭く適確な批評だと思った。文章も具体性に富み、とても読みやすく面白いしね。
特にうれしかったのは、「本作の特異な点は全篇に渡って死の気配が漂っている点にある」という鋭い指摘から論を進め、ついには「不確かな生の記録」であると結論づけ、「池島ゆたか+五代暁子コンビのみごとな新境地である」と位置づけてくれた点にある。
はっり言って、大変うれしい。
ここまで明確に考えていたわけではないが、オレたちのねらいとしては、「死の気配」とまでは言わないまでも、「不安感と孤独感」が、濃密な空気感、つまり気配となって漂っている映画にしたいということと、そこから今という不確実な時代のひとつのドキュメントが作れれば……ということにあったからだ。(ま、ドキュメントということは、モーレツに意識した。そこから、全体の半分近くをビデオ撮りにして、同時録音をいかしたというわけだ)。
余りにズバリと指摘されて、うれしいやら、気恥ずかしいやら……といった気分だ。
それにしても「佐野和宏によく似た男の正体は死神かもしれないのだ」という指摘にはビックリ。はっきり言って、オレはそこまで考えていなかったからだ。「佐野チン、朝まで鳥やすで呑んでいてよ。朝撮影に行くからそのままいてくれよ」と頼んだが、まさか佐野が死神とはね。しかし、作り手までも驚かすところに、批評の批評たるゆえんがあるし、その意味でこの指摘は正しい指摘なのだ。なぜなら、オレはビックリしつつも、楽しい気分にもなり、そしてオレ自身「佐野和宏によく似た男の正体は死神かもしれない」と思えてきたからね。
その他、6年ぶりの復活で、巨乳になって帰ってきた橋本杏子に対する言及に至るまで、とても楽しく読ませてもらえたのだった。
このm@astervisionという人の映画評、色々と読みたいもんだよ。石動さん、またよろしく。

2002.10.1(火)

戦後最大級という台風が日本をおそう。こういう日は家でおとなしくビデオを見たりTV見たりしてるのが楽しい。

2002.10.2(水)

新東宝で打ち合わせ。劇団天然工房の主宰者にして助監督の森角に脚本家デビューさせるという計画が、オレと新東宝プロデューサー福原氏との間で進行していて、今日はその打ち合わせ。(そういえば天然工房、とうとう前回の公演で−オレは現場中と重なり行けなかったのだが−動員数千人超えたという! これはかなりすごいこと。このままいくとメジャー劇団に成る日もそんな遠いことじゃないと思えるのだが、唯一気になるのが、役者陣に花形を呼べるような華のある俳優がいないこと。劇団が大きくなる時、そこには必ず花形と呼ばれる役者がいるということは歴史が証明している)。
森角の提出していたプロットに対して色々な意見が飛びかい、テンション上がり、これは傑作になるなと思ってしまう。ま、どうなるかは分かんないけどね。
森角、来年2月に次の公演控えているので、出来れば年内にやってしまいたいのだが、さてどうなることか?
内容は簡単に言うと、ドタバタ・コメディで、昔、東宝がやっていた「社長シリーズ」のピンク版といった話だ。ンー、ドタバタやりたいなァ。毎年やってた「三好家シリーズ」が今年は出来そうもなくなってきたしね。
それから五代宅で打ち合わせ。こっちの方は、11月クランクイン予定の次回オーピー作品に関するお話。そう、オレは久々に「三好家」やりたかったのだが、おとついの映倫試写の時、会社の方から「コレ、どうでしょうか?」と、11月に公開予定のアメリカ映画、ラブ・ファンタジー『セレンディピティ』のピンク版という企画を与えられたのだ。試写を見て下さいと、試写状までくれてね。
そんなわけで、試写見ないうちはということで打ち合わせにならず(試写は4日に行く予定)。
呑み食いして、深夜2時半。五代宅をあとにして、高円寺「鳥やす」へ。うわー、いるいる、今井さん、俳優の坂田雅彦氏、佐野和宏、佐々木麻由子などなど…。
結局、気がついたら朝の9時。まいったなァ……。

2002.10.3(木)

そんなわけで、今日『恋する男たち』の試写が、前回仕事で見れなかったキャメラマンの志賀ちゃんの要望であったのだが、オレは行けず。夜の6時まで眠り込んでしまったよ。も〜、最低!
夜、志賀ちゃんから「起きた?」と電話。「今回いいよね〜」と大いに盛り上がる。

2002.10.4(金)

五代と『セレンディピティ』の試写見る。銀座の東宝試写室。
ンー、はっきり言ってコレだめです。いい歳した男と女が(劇中、男の歳は35才と言ってました)、それぞれの婚約者、両親、友人など周囲の迷惑かえりみず、「運命の恋」に突っ走るという一篇。ロミオとジュリエットじゃないんだから、たのむよ−という感じ? 周りを不幸にして、お前たちだけ「運命の恋」=「幸福」をゲットしようだなんて、ただの虫のいい話。オレにはとうてい許しがたい、自分勝手な男と女のお話にしか思えず、こんなもん、どうしたらいいのよ−という感じなんだけどね(オーピーの次の企画、会社の方から『セレンディピティ』のピンク版どうでしょうか?と言われてるわけよ)。
やっぱり娯楽映画って、特にこういうラブ・ファンタジーの場合って、みんな幸福になるっていうか、どこかホッとするっていうか、そう、やはり感動がなくちゃダメだと思うんだな。(それにしても、『セレンディピティ』で「運命の恋」をゲットしたはずのジョン・キューザックがちっとも幸福そうな顔に見えないのって、オレの思い込み? それとも、こんな男が幸福になるはずねーじゃんかというジョン・キューザックの制作サイドに対するアンチ・テーゼ?)
ま、主人公のキャラを変えて、ただの虫のいい自分勝手なやつらにしなければ、「運命の恋」に突っ走る中年の男と女の話もありかなとは思うので、五代ともう少し考えてみようとは思うけどね。

2002.10.5(土)

劇団とっても便利というとこから招待状送られてきたので見に行く。
ミュージカル『美しい人』。場所、新宿タイニイアリス。
チラシ見るとすごいんだよね。いわく「作曲・演出はロンドンで舞台経験もあり、気鋭の映画評論家としても売り出し中の大野裕之です」。「舞台美術には新国立劇場のオペラ『沈黙』や、松本人志のビデオ『頭頭』のキャラクター・デザイン・美術などオペラ界・TVで活躍中で、先頃伊藤喜朔新人賞を受賞した増田寿子氏を迎えて〜」。また劇団とっても便利は「現在、京都大学院博士課程在学中で、映画評論や出版でも活躍する大野裕之を中心に結成され(中略)今では関西で屈指の人気を誇る異色ミュージカル劇団」であり、また「出版部として『マルクスの現在』(柄谷行人・浅田彰也著)『チャップリンのために』(淀川長治他著)など編集出版し、ベストセラーに。最新刊『パゾリーニ・ルネサンス』は全国売り上げチャートで見事4位を獲得」。「代表大野裕之は(中略)朝日新聞や毎日新聞などでも映画コラムを執筆」
どーです。すごいでしょ。メジャー風の匂いプンプンだよね。オレもどこかで代表の大野裕之さんの書いたもの読んでるかもしれないよ。
でもね、オレはこの舞台乗れなかったよ。近未来ものなんだけど、「慢性化する不況に頭を悩ませた政府は、失業者対策として、職を失った人間専用のスペースを動物園の隣に作り、その『人間園』に入る人にとその施設のことを『美しい人』と呼ばせた」という話のアイデア、スタートからしてまさしくステロタイプで、結局最後までそのステロタイプの図式性から離れることなく舞台は続く。
ラストなんて、大昔に現代人劇場、桜社時代の蜷川幸雄がさんざんやった手法の焼き直しというか、まったくのパクリで、オレとしてはアゼン。
次に、演技と歌と踊りだが、何十人も出ていて、オッと思わせる魅力的なパフォーマー、そして、瞬間にさえ一度も出会わなかった。あれほどたくさん出ていてね。オレにはそれが信じられない。1人くらいはいるだろうよ。
はっきり言って、かなりレベル低いんじゃないの?と思った。言い方は悪いけど、なんか学生演劇ぽいっていうか、そういうレベルっていうの?(学生演劇の方、スマン。学生演劇のすべてが悪いと言ってるわけじゃないからね)。
それにしても、あの盛況ぶり。狭いタイニイではあるが、真っ昼間からふくれあがっていた。かなり複雑な気分にさせられたな。
大野裕之さんも、京大の大学院生で気鋭の映画評論家ということで、かなり頭脳明晰な方だと思う。だからして、より頭脳と実践の隔たりを感じてしまうのだ。

夜は荻窪グッドマンで、桜井明弘さんのマンスリーライブ。ここ1ヶ月ちょいで桜井さんのライブ見るの3度目。桜井さんの作る歌のいいとこって、私小説じゃないとこがいいんだなァ。オレもここんとこ何度かライブに通って他のシンガーも何人か聞いて思うのだが、みんな悪い意味での私小説なんだな。お前のこと(人生、日常、生活感情)なんか別に知りたくもないんだよ−という反発心が芽生えてしまうのだ。その点、桜井さんの作る話は、もっとポップでおおらかだ。つまり、聞いてて楽しくなってくるのだ。そして、それが「音楽」なのだ。「楽しく」なくちゃ、「音楽」じゃないよね。
ライブ後の打ち上げ。実はライブの前から呑み始めていたオレはこれですっかり出来上がってしまい、もっと呑もうかと「鳥やす」へTEL。すると、下元史朗が来てるというではないか。これは会わなくちゃと、高円寺までタクシーを飛ばす。
オレと下元史朗って、うちらの業界でもあんまり知られてないけど、実は30年くらい前からの知り合いなのだ。
当時の下は、演劇をやりつつ、ピンクにも出始めていた頃。オレは、ガチガチの演劇やろう。
ま、細かい話はまたの機会にということで、ひとつだけ言いたいのは、当時のオレは、芝居の演出、役者を中心に活動していたのだが、なんと、ホンも書いていたのだな。そして下は、オレの当時のあるホンで、主役をやったことがあるのだな。なんか、信じらんないよね、オレ自身が。
ついでにもうひとつだけ言うと、下元とケンカしたことがあり、それは、オレがピンクに出てる下元をボロクソに言ったからだった。「役者が裸になっちゃおしまいよ」なんてウソぶいていたんだからね。信じらんないよ、オレ自身が。
ま、そういう古〜い過去があるのだよ。
そんなわけで、久しぶりに下とぐだぐだと酒を呑む。
オレと下とマスターの松ちゃんと、同じ歳の中年男3人しか店にいなくてね、誰かがさびしいからギャルズ呼ぼうぜと言いだしたので、オレが比較的鳥やす近所のギャルズ何人かにTELしたところ、水原香菜恵、奈賀毬子、山咲小春と3人も来てくれた。みんな、えらい! 夜中の2時〜3時の話だもんね。
最後は松ちゃんとオレだけで、駅前の角屋。朝の9時まで呑んでいたのだった。

2002.10.6(日)

またもライブ見物。吉祥寺、Be−Point。東京ダウンタウンBAND。
1週間前、桜井明弘氏のライブ同所で見た時、ゲストとして登場し、一曲ギター弾きがたりで歌ってくれた雨宮氏のバンドだ。その時の雨宮氏の歌にえらく感動したオレは、これはもう絶対見ようと思っていたわけだ。
とはいうものの、朝の9時まで呑んでいたので起きるのにひと苦労だね、やめちゃおうかな?なんて思ったものだったが……。
いや〜ァ、ムリして行ってよかったよ。はっきり言って、サイコーのライブでした。楽しい。とにかく楽しいのだ。中でも特にすごかったのは、『コーヒールンバ』のイントツルメンタルね。いったい何ごとが始まったの?と思わずふるえてしまったよ。メチャかっこいい。(そして、ゲストで出て一発ぶっぱなしたビリー諸川がすごかった。ビリーさんは、オレたちELVISマニアの間では超人気でよく知られているロカビリアン。ELVISに関する著作が何冊もあるのでもユーメイ。オレ、ビリーさんが数年前、ELVISの街・メンフィスのサン・レコードで録音してきたCDも持っていて、当時ちょっと聞いたのだが今ひとつピンとこなかったのよ。それがこの日のライブの爆発的なすごさといったら、も〜、形容する言葉がないね。とにかくすごかった。絶句です。一曲しかやらなかったけど、もしあのパワーで1時間もやられちゃった日には、ホント、気絶しちゃうだろうなァ。今度ビリーさんのライブにも行ってみたいもんだよ。いや、行こう。絶対行かなくちゃ)。
そんなわけで、音楽だけが持つ楽しさにひたってみたい人、雨宮直己と東京DOWN TOWN BAND、おすすめです(実はメンバーの人って、あちこちのメジャー系のバンドでバリバリにやってるプロの方たちばかりで、そういう人たちが、5人集まってやってるバンドがこれなんだよね。だから、音が違うのは当り前なんだけどね)。彼らの次のライブは同じくBe−Pointで11月の2日です。オレも出来る限り行く予定。みんな行こうぜィ!

2002.10.7(月)

病院でくじいた足の検査。2週間前たったけどほとんどよくならない。足を曲げられないので運動が出来ないのが痛い。せっかく夏以来適時体を動かすようにしていたいのにね。
渋東シネタワーで『サイン』見る。
奇跡的な啓示をめぐる映画だったが(つまり、それが「サイン」の意味ね)、オレもこの映画からある啓示を受けた。
どうしたものかと思っていた次のオーピーの企画の元ネタの『セレンディピティ』だが、こうしたら何とかならのでは?−という一種のインスピレーションをこの映画から受け取ったのだ。
明日、五代と打ち合わせなのだが、その前に絶対見ておいてと彼女に言われていたので、少しムリをして見に行ったのだが、あ〜、見ておいてよかった。オレたちの映画に一気に展望が開いた気分だ。
ところで『サイン』だが、今回インスピレーションを受けたせいか、この監督作としては、オレは一番よかった。主役が、ブルース・ウィリスからメル・ギブソンに変わったのもよかったね。2人ともそんなに好きな俳優ではなかったが、今回初めてメル・ギブソンが好きになったね。つまり、メルギブすごいよかったよ。オレ、彼の芝居で泣けたよ。あの人、うまい役者なんだって初めて知ったね。
以上−。だから、この映画はよかった。