2002.5.19(日)〜21(火)

オーピー作品『デリヘル嬢 絹肌のうるおい』撮影。
最悪の体調(突発性難聴・原因不明の頭痛と首の痛み)と、ここ2週間ほどカラッと晴れた日がほとんどないという天候の心配、この2つの大いなる不安要素をかかえてのクランクインとなる。

初日。雲の流れは早く不安定だが、とりあえずは晴れてくれた。よかった。
まずはオープンロケから。正式には、オレの『淫乱謝肉祭』以来、6年ぶりの復帰作となる橋本杏子の登場シーンから。ヒロインの風俗嬢・夏夜役の真咲紀子が某シティホテルから出てくると、赤ん坊をとりっこする夫婦のケンカにぶつかる。赤ん坊(杏子本人の赤ちゃん・蓮華)を抱いて逃げる夫。妻(杏子)は、バックから包丁取り出し、夫を追ってゆくというシーン(多分に、というか、もろ、ゴダールの『男性・女性』からのパクリのシーンだ。そう、今回の映画は、大いにゴダールを意識した映画だ。”物語らない映画”がねらいだ。登場人物個々のエピソードが並列的に語られている、というか、語りたくないので、ただただ並べられているだけの映画にしたいのだ。その中から見えてくるもの、浮かび上がってくるものがチラッとでもあればいいなァ……というのがねらい。ま、オレの成人映画69本目にして初めての実験的映画だ。うまくいくかどうかは分からないが、ま、ピンクだからこそ、こういう実験も許されるというわけさ)。
今回の撮影は、このシーンもふくめて全体の3分の1がビデオ撮り。ま、出来るだけ同時録音の雑然とした空気感を生かしたいというねらいがあってそうしたのだ。
次に、中野坂上のファーストフード店でのゲリラ撮影。杏子と紀子のシーン。ここもビデオ撮り。
百人町に移動。某ビルの屋上で女3人のシーン。ここはフィルム撮り。
昼頃、抜弁天のTスタジオへ移動。あとは最後までこの日はTスタジオでのロケ。
風俗嬢たちのオフィスのシーン、AVスタジオでの撮影シーン、お客2人と風俗嬢2人の4Pのシーンなど撮影し、終了、深夜1時半。今日は全17シーンのうち9シーンがビデオ撮りであった。

2日目。朝9時新宿集合。今日はヒロイン真咲紀子一人のシーンを中心に、全シーンがオープン・ロケ。ああ、それなのに、朝から雨。とりあえず最初のロケ地である西新宿神田川沿いの道まで行き、車の中で待機。待つほどに雨は強くなり、10時過ぎにはとうとう横なぐりの雨になる。強い絶望感におそわれる。一体どうしたらいいんだ?! あせる助監督にもちょっとヒステリックに「とにかく11時まで待とう」。といいつつ、11時にさしたる根拠があったわけではない。
ところが、11時になるや、いきなり陽がさしてくるではないか! 「さあ、やるぞ!」と一気に始める。準備するうちに、みるみる路面も乾いてくる。なんてラッキーな!
そこでは10シーンほどであったが、バタバタと撮りまくり、午後の1時には終了。昼食後は、上野公園へ移動。
移動の車中、ついウトウトと10分ほど眠ってしまうが、その時、風邪をキャッチしてしまった。そのせいで最終日はえらい目にあうことになる。
上野公園で3シーン。夕方になる。移動。お茶の水のJRの上にかかる聖橋でのロケ。残念ながら夕方から曇ってしまい、期待した夕陽は出なかったが、これはこれでステキなカットになってるハズだ−と、志賀キャメラマンが言っていた。
終了6時。暗くなる前に終った。明日はたいへんなので今日はちょうどいいところだろう。今日は全14シーン中、8シーンがビデオ撮り。

最終日。朝7時新宿集合。オープンを一発。高円寺へ移動。なじみの鳥やす借りて2シーン。エキストラがすごい。佐野和宏、後藤大輔、マスターの松木良方、そして今井事務所の今井社長の4人だ。佐野和には前から言ってたんだよね。朝まであの辺で呑んでて8時頃には鳥やすにいてくれよと。そしたら他の人たちも(偶然いたということだが、年中いるので必然か)そうしてくれてたというわけね。
おかげで楽しく撮影をすませて大久保のOスタジオへ移動。そこで4シーン。
新宿へもどり、4シーン。
夕方から某シティホテル。そこでからみを中心に4シーン。
終了、深夜12時半。しかし、これは演技部の終了であって、オレとスタッフは終わらない。ビデオ撮りした分の画撮がフィルム5本分(21分ほどの分量)残っているからだ。それとタイトル撮りなどもね。
以前、フィルム2本分ほどの画撮をしたことがあり、その時は2時間ほどかかった記憶がある。ということは、今回は画撮のみで5時間か。
やはり、かかった。終了、朝の7時であった。
画撮の間、オレには悲惨なことがおそいかかる。前日キャッチした風邪と、耳のために呑んでいる薬の副作用のせいか、大量の目やにが出てきて、視界ほとんどゼロ。顔を洗っても、目薬をさしても、全然ダメで、オレは何時間というものほとんど見えない目で画撮のためのモニターの画面を見ていたのだった。もうそうなるとほとんどカンね。カンだけを頼りに、スタートとカットをかけたってわけさ。ま、もともと、素材のビデオもカット割りで撮っているので、7、8割方はその時のカット割どおりでよかったので、それほどたいへんなことではなかったけどね。(心配したのは、またあらたに目の病気までキャッチしてしまったかも?ということでね。ま、その点は、睡眠をとったら直ったのでホッとした。)

2002.5.22(水)

そんなわけで朝の9時頃帰宅。11時頃ベッドに入る。夜の7時頃起きる。樹組の初稿がFAXされていた(脚本・岡輝男)。

2002.5.23(木)

新宿ピカデリーで『ロード・オブ・ザ・リング』。1ヶ月以上ぶりの映画館だったが、この映画、一体、何なの? 始まってすぐ眠気がおそってきて、3時間の間ほとんど寝ていたけど、音響が余りにうるさいのでたまに目を覚まして画面を見るということが何度もあったけど、驚くべきはどこで目をあけて見ても全部同じシーンに見えたってこと。余りにもむなしいので一言だけ言うと、この映画、映画百年の歴史にとどめを刺すかのような、最強・最悪の映画と言いたい。一体なんでこんなものに人々は群がるのか?
こんなものに比べると、あのひどい『タイタニック』も『エピソード1』も『ハリー・ポッター』もまだまだ許せるよ。断じて言う。こんなもん映画じゃない!!
夜。樹組・打合せ。樹かずと岡くんと会い初稿の検討。はっきり言って、オレは監督をやるわけじゃないので、それほど脚本にこだわっているわけではない。オレはプロデューサーという立場なので、かずがやりやすい環境を作ってやるのがオレの役割りだと思うからだ。その上で言うが、このホンじゃなあ……。はっきり言って、オレ、降りたくなっちゃったよ。なんとかしてくれ!

2002.5.24(金)

オーピー作品『デリヘル嬢 絹肌のうるおい』編集。今回は、ここ6年くらいでは、最もフィルムが回らなかった作品なので(普段は19〜20本くらい。今回は17本半)、そんなに心配してなかったが、それでも65分以上あり、ちょっとビックリ。ま、長回しが多かったせいもあるとは思うけどね。
夕方4時から佐藤吏の処女作の初号試写。
佐藤は演出うまいと思う。適確なカット割りといい、アングルといい、キャメラの動きといい、役者の動かし方といい、よく考え、よく練られ、実にうまいと思うのだ。作品も処女作らしい力作に仕上がったと思う。しかし、何なんだろう、あの違和感というか、ちょっと違うなという感じは−?
根本的なところで、水と油を融合させようとしてるようなムリがあったのではないか。
夫婦関係の亀裂をテーマに、その再生と和合を描いたものだが、夫は外に働きに行くことの出来ない病人で、例えて言えば、リアリズムの世界に生きている。その夫を支えて働く妻は、浮気もしてるが、過去の夫、出会って結ばれた頃の夫を愛している−過去の夫の姿、つまり、幻影を愛しているのだ。例えて言えば、ファンタジーの世界に生きている。
つまり、強引に言ってしまえば、リアリズムとファンタジーを融合させようとしたものの、それは所詮、水と油であって、そこにムリがあったのではないかと思うのだ。
ラストのクライマックスのくだりでは、強引にファンタジーの世界に持っていってしまい、リアリズムは捨てさられてしまう。
リアリズムはどこへ行ってしまったの?−と途方にくれてしまうのだ。それがあの違和感の正体だと思う。
だから、絵に描いたように感動的な展開に持っては行くが、本当の意味での感動はないのだ。ウソだろ、何ひとつ根本的に解決されてないじゃないか、あのラストはないんじゃないの?−と思うのだ。
やはり佐藤はおのれのファースト・インスピレーションの世界に浸り過ぎたのではないか? それはあの縫いぐるみの人形なのだが、そこから脱け出せなくなり全体を見失ってしまった、というか、考えもしなかった−という感じがするのだ。
一番やりたかったところに落とし穴がある−とはよく言われることだが、今回の佐藤はまさにそうだったのではないかと思うのだ。
オレだったらどうしたか?
オレはやはりあの夫婦は別れるしかないと思う。夫は一人になり、甘えられる妻がいなくなったので体にムリのない程度には働いている。その子供妊娠中だった妻は、別れたあと、その子供を産む決意をし、一人で育てている。そして、数年後の偶然の再会−オレの頭の中にはウディ・アレンの『誘惑のアフロディーテ』のイメージがあるのだが、アフロディーテ的な感動の幕切れにしたいものだ(そうそう、『シェルブールの雨傘』なんてのもあった)。オレだったら、そうもっていったと思うのだ。

2002.5.26(日)

久しぶりに映画をハシゴ。5本も見る。まずは飯田橋ギンレイで『ムッシュ・カステラの恋』『インティマシー/親密』。『インティマシー』の過激でリアルでちっとも美しくないSEX描写に少し驚く。そにしても女優が余りに庶民的すぎるよね。もっといい女で見たかった。
次に上野オークラで3本。自作の佐々木麻由子引退作『燃えつきた情事』、小川監督『レイプ痴女 撫でくり廻す』、清水大敬『変態レイプ 教師すすり泣く』を見る。清水組のヒロインの女優がなかなかそそるものがあってよかったよ。
樹組の台本の直しがFAXされる。根本的なとこでは何ひとつ直っていない。ダメだ。

2002.5.27(月)

オーピー作品『デリヘル嬢 絹肌のうるおい』オールラッシュ。
夜。樹組・打ち合わせ。かずと岡くんに、台本の直しを五代暁子に頼みたいと提案。2人ともOKとなり、五代に頼むことになる。
2人と別れたあとは、オレの方の映画の件で音楽の大場一魅と会い打ち合わせ。今回の作品は基本的に音楽なしということになる。それが作品のねらいでもある。ただまったくないのもアレなので、一魅の過去の名曲を2曲リクエストする。『ハレンチ学園』の時のテーマ曲と『欲情牝 乱れしぶき』のテーマ曲の2つだ。このへんを2〜3回使うつもりだ。
久々に鳥やすに呑みに行く。しかし、明日はアフレコ。1時間ほどで帰る。
後藤組・新東宝作品の初稿上がる。去年に続いてオレがプロデューサー。まだいいけど、かずとほとんど同じ時期に入るのでこれからちょっと大変か。ちなみに、後藤組は6月29日から7月2日、かず組は7月4日から7日の予定だ。

2002.5.28(火)

『絹肌のうるおい』アフレコ。なんと、終了、夜の10時前。大体いつもは深夜の12時は回るし、こんなに早く終ったのって、最近記憶にない。なぜか? 全体の3分の1がビデオ撮りだったので、その分アフレコがなかったためだ。
ヒロインの真咲紀子と、まったく初ものの北条湖都−ずい分怒ったけどもちょっと引いてみると2人ともたいしたもんだよ。オレもつい2人ともほとんどシロウトということを忘れて怒っちゃうんだけど、紀子は限りなくシロウトに近いし、湖都に至っては完ぺきなシロウト。そう思うと、2人のやってることって、かなり大変なことなんです。2人とも、エライ!
橋本杏子。天才・橋本は健在だった。6年ものブランクがあって、一体アレは何なんだろう? まるで昨日の続きみたいな、毎日やってるみたいな顔してやってしまうあの感性って? 6年以上前とおんなじ橋本杏子がそこにいるのだ。いや、よりステキになってね。赤ちゃんが出来たせいか、Eカップの巨乳だよ。以前はBかCだったんだからね。赤ちゃんがいるので難しいとこもあるのだが、機会があったらこれからもドンドン出て欲しいものだ。なんたってオレは、20年前の彼女がビニ本モデルだった時代からのファンだからね(その時からのファンだった女ってもう一人いて、三沢亜也ね。そう、しのざきさとみね)。
その他、多くの出演者の方々−みんな適材適所で文句なし。特に印象的なのは、本多菊次朗と佐々木共輔。本多さんは、この前の森山組の主演の時から気に入ってしまい、今はその延長線上のイメージね。共輔は、やはり、いいのだ。やっぱり役者は、役者してないとダメね。共輔なんて実力派なんだから、もっとガンガンやって欲しいもんなんだけどね。
アフレコ後は、簡単にお疲れの呑み会。お開きのあとは、オレ一人で高円寺鳥やすへ。いつもの連中−今井さん、後藤大輔、佐々木麻由子、そして当然マスターの松木良方がいて、オレは久々に、3週間ぶりくらいか、朝まで呑む(体調が悪いせいもあって、朝まで呑むのをひかえていたのだ)。

2002.5.29(水)

『絹肌のうるおい』音入れオールラッシュ。一体今度の映画ってどうなるんだろう? よく分からん。が、オレは一人でどこかニコニコしてしまうのだ。
夜。五代暁子、樹かずと会い、樹組の台本の直しの打ち合わせ。五代だったら、オレの一番気にしてるとこは確実に直してくれるはずなので、オレは安心。

2002.5.30(金)

映画見物。シャンテ・シネで、コーエン兄弟の『バーバー』。丸の内プラゼールで『アザーズ』。
『バーバー』。コーエン兄弟の手の内は分かってるだけに、そんなにカンタンにはのせられないよ。そろそろ、他の手はないの? とりあえず、今だに彼らのデビュー作『ブラッド・シンプル』を超えるものには出会ってない(ま、『ファーゴ』はよかったけどね)。
『アザーズ』。とにかくニコール・キッドマンがメチャクチャいい。キューブリックの『アイズ・ワイド・シャット』、そして『ムーラン・ルージュ』、そして『アザーズ』。まさにホップ・ステップ・ジャンプだ。この3本を、ニコール・キッドマンの「女優記念日・3部作」と以後オレは位置づけよう。とりあえずこの映画、ニコールを見てるだけであきないです。もちろん、監督の演出もすばらしいけどね。
夜。一魅と音楽の打ち合わせ。正式に、今回の映画は、『ハレンチ学園』のテーマと、『欲情牝 乱れしぶき』のテーマの2曲を使うことにする。