NHKハイビジョンドラマとして99年に放送された後、再放送もソフト化もされないまま伝説と化していた幻の傑作が<由美香 Oh My Love!>特別企画としてついにスクリーンに登場!

2005年6月27日、35歳の若さで急逝した女優・林由美香が風俗嬢・佐知子役を自然体の演技で見せ、彼女自身もカンヌ映画祭へ招待されたという記念碑的作品であり、隠れた代表作である。

海へ行くつもりだったあの日、僕は何故か人を殺した。
一也(水橋研二)は、同じ会社で働く父(渡辺哲)からリストラ宣告を受け、離婚して小料理屋を営む母(りりィ)のもとに身を寄せた。母はまもなく祖母を轢いてしまった男・坂本(塚本晋也)と再婚する。坂本と折り合わず居場所を失った一也は風俗店で働く佐知子(林由美香)と出会い、日曜日に海へ行こうと約束する。だが、その日自分でも説明のつかない衝動に駆られ、坂本を殺してしまう。数年後、刑務所から戻ってきた一也、実父や母はなにごともなかったかのように自然に迎えようとする。一方一也は、あの日曜日の続きを探すようにして佐知子の元を訪ね、二人は再会する…。
ハイビジョンに負けない林由美香の美しさ
「日曜日は終わらない」
(文◎柳下毅一郎)
「映画秘宝」(洋泉社)05年9月号より抜粋
(前略)ハイビジョンは女優の肌の肌理まで美しく見せる残酷なメディアだと言われる。ならばそこでもっとも美しく輝くのが真の美女の証明だとも言えよう。(中略)薄暗いランジェリーパブ内での撮影が見事である。実際の風俗店を使用したらしいが、わずかな光に浮かび上がる林由美香の姿はまるで幻想世界のように美しい。闇を映し出すハイビジョンの威力である。六甲山頂の廃墟ホテルを自転車でぐるぐるまわる場面は、過去の林由美香作品へのオマージュなのである。役柄はおきまりの「聖なる娼婦」なのだが、何より水橋研二、りりィ、塚本晋也といった面々を向こうに回しても圧倒的な存在感を見せつける林由美香に女優としての実力を感じた1本としても忘れがたい。(後略)
高橋陽一郎×岩松了
監督は「水の中の八月」(1998)で第39回テッサロニキ映画祭最優秀外国映画賞を受賞した高橋陽一郎。本作も第36回シカゴ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、第53回カンヌ国際委映画祭正式出品など海外でも高い評価を受けた。そして脚本は劇作家として数々の演劇賞を受賞し、『東京日和』(竹中直人監督)で第21回日本アカデミー賞脚本賞も受賞、俳優としても特異な存在感を発揮する岩松了。本作品でも、日常の不条理な出来事に対してなしくずし的になりながらも自分の生き方を模索する人々を、独特のユーモア感覚と淡々とした視点で描き、それを高橋監督が瑞々しい映像で捕らえることにより、類い希な空気感を醸し出す事に成功している。