2002.6.19(水)

渋谷東急で『ルーブルの怪人』。エルミタージュで『ハイ・クライムズ』。
『ルーブルの怪人』。つまらないだろうと思っていたが、いやはや予想以上にひどい映画で、もうこうなると楽しみはソフィ・マルソーのヌードだけだったが(あの人、よく脱いでくれるじゃない?)それも後姿のみという中途半端さで、一体何だったのこの映画?
『ハイ・クライムズ』。大好きなアシュレー・ジャド主演で、モーガン・フリーマンが共演の法廷サスペンスとくれば、これはもう間違いなく楽しませてくれるよね。最後のドンデン返しがちょっと強引だけど、えてしてこの手のヤツってそんなもんだし、いいんじゃないのコレ。それにしても、アシュレー・ジャドはステキだ。

2002.6.20(木)

後藤組の役者リハーサル。
キャスティング、あと一人決まらない。自分の作品の時より10倍くらいエネルギー使って探しているが、まだ見つからないのだ。飛んだ女がうらめしいよ。会社は葉月螢さんでいいですよと言ってくれてるが、そして葉月だったら色んな意味でどんなにいいかとも思うが、今回の作品のテイストはどうかな?と思ってしまうのだ。今回の作品のキャスティングのねらいは、出来るだけピンク映画に露出してない人で固めたいというのがあるからだ。それで難行している。
クソーッ! どこにいるんだ?! オレたちの「圭子」!(圭子は役名ね)。

2002.6.21(金)

樹組、演出部打ち合わせ。
夜、池袋シアターグリーンで助監督の森角の作・演出による天然工房第5回公演『クーラー消してもいいですか?』を見る。
驚いた。あまりの面白さに。こういうのを傑作というのだろう。
舞台は、とあるマンションの一室。新婚旅行から帰ってきたばかりの若い夫婦の登場から芝居は始まる。2人はささいなことが原因でのケンカをしている。ま、よくある夫婦ゲンカってヤツね。言葉のアヤで、2人はどんどん険悪になっていく。するとそこへやってくる人々−夫の友人たちやら、夫の兄貴やら、クーラーを直しに来た電気屋やら、……そして、何と、ユーレイの女のコも!
舞台は、上を下へのお笑いシーンの連続なのだが、そこから2つの主題が徐々に立ちあがってくる。
ひとつは、「かくれんぼ同好会」の話。主人公の夫とその友人たちは学生時代、そういう同好会をやっていて、かくれんぼとはいってもそのスケールは大きく、日本中を股にかけて隠れるヤツ、そしてそれを捜すヤツラという具合だ。その中で「広岡」という男の話題が出てくる。広岡は隠れたまま6年(だったかな?)たってもまだ出てこない。そして夫や友人たちも、話の中で広岡の話題はするが(「そういえばアイツどこへ行っちゃったんだろうなァ?」などと)、社会人となり、広岡のことを捜そうともせず、いや、広岡のことなんか、もうすっかり忘れてしまっているのだ(劇の後半で、その広岡が登場して、増々ギャグはパワーアップし、大笑いさせてくれるのだが)。
ここで重要なのは、「忘れてしまっている」ということだ。
もうひとつは、ユーレイの女のコだ。
唯一人、そのユーレイを見ることが出来る夫の兄貴は、ユーレイを「お菊さん」と呼ぶ(なぜなら、妻がオカルト好きということで夫の友人たちが、新婚祝いに「番町皿屋敷」のお菊の割ったお皿セットをプレゼントで持ってきていて、そこに出て来たユーレイだから、「お菊」と思ってしまったわけだ。でもこの「お菊」は少女っぽい白いワンピースを着ているのだ。そして、このお菊をめぐる、つまり「見えない存在」をめぐるギャグも、当然のごとく、大爆笑だ)。
しかし、この「お菊」は、実は、夫の初恋の相手であったのだ。このお菊さん、最近、交通事故で死んでしまい、初恋の「夫」に会いに来たということだつたのだ。
色んなサインで思い出させようとするお菊。しかし「夫」は思い出さない。というか、13人の女性と深くつきあったという、それなりのプレーボーイの「夫」は、過去の女なんかすっかり忘却のかなたなのだ。
思い出してくれなければ、死んでも死にきれないと思う「お菊」と、彼女のことなんかすっかり忘れさっている「夫」。
ここで重要なのは、また再び「忘れてしまっている」ということだ。
こうして2つの主題が巧妙にひとつのテーマに重なって、溶け込んでいくという二重構造の作劇術−これはもうホント、見事というしかない。しかもギャグの連続で大笑いさせつつね。
このホンと演出がすごいのは、「人間って、日常に流されてしまって、その人にとってホントに大事なことを忘れていない?」とか、「Aという人間にとってはささやかなことかもしれないが、Bという人間にとってはそれは非常に大事なものかもしれない。だからもっと思いやりを持とうよ」−といった普遍的なテーマを、けっして声高に主張することなく(だって、そんなのって恥ずかしいもんね)大笑いの中からさりげなく、そして、ささやかに昇華させることに成功したって点だ。しかも劇的な感動とともに。
役者もよかった。オレが見てる1回目、3回目の公演の時と比べると、格段の進歩だ。1回目から出てるのは、兄貴役の松田くんとユーレイ役の中谷千絵さんの2人だと思うが、2人が特にいい。松田くんは増々乗ってきてるなァという感じ(佐藤吏のデビュー作でピンク映画デビューを主役で果たしたというのも大きいと思う)。千絵さんは、見るたびにアカ抜けてくる。キレイになってくる。2人ともまた次が楽しみだ。
他の役者陣も適材適所。みんな生きた。個人的には、広岡役、妻役、夫役の人たちが印象に強い。
森角の集団もずい分力つけてきたなと思う。このままいけば、2、3年後には……。あとは言うまい。一番恐いのは、慢心。演劇って、あっという間に退廃していくものだから−詳しくは、ピーター・ブルックの名著『なにもない空間』を読むといい。いや、この本は演劇人のバイブル。絶対読め。
芝居のあと、東中野のリズに行くと、森角も偶然来ていた。話が盛り上がったのは言うまでもないだろう。

2002.6.22(土)

後藤組・ロケハン。

2002.6.23(日)

後藤組・役者リハーサル。今だに「圭子」決まらず。明日、あさっての女優面接が最後の勝負だ。
ビデオでミヒャエル・ハネケという監督の『ファニーゲーム』という映画を見る。久々の掘り出しものでした、コレ。
話は、平和な家族の別荘での休日が、2人の見知らぬ若者の闖入によってズタズタにされ、恐怖の一夜となり、最後は家族全員殺されてしまうという、かなり「猟奇」なお話。
全く救いのない酸鼻なお話なのだが、そして、よくあるパターンの映画といえば、まさにそうなのだが、この監督の手にかかると、まさに「ファニー」なゲーム、つまり「おかしな」そして「奇妙な」ゲームのお話となる。
恐い映画です。でも、お決まりの血が飛び、内臓がえぐられるといった残酷描写は一切ありません。「真綿で首をしめられるかのよう」という言い方がありますが、これがまさにそれ、ジワジワと意地悪く見ているものを、イヤ〜な気持ちにしていくのです。まさにリアルな恐さです。
それでありながらこの映画、全く救いのないお話でありながら、殺人鬼の青年2人のかもしだす、まさに「ファニー」な感覚によって、おかしなことに、奇妙なことに、最後の最後にイヤ〜な気持ちから解放してくれるのです。
なんてイヤな映画を見てしまったんだという気分から一気に、一種、爽快な気分へと、いきなりの逆転を味わえるという、まさに「ファニー」な映画なのです。
これはもう見てもらうしかありません。おすすめです、この映画。レンタルビデオ屋にいそいで下さい。
もう一言二言つけくわえます。
ポランスキーの古い映画『水の中のナイフ』を見ているうちに思い出しました。近いうちに再見しようと思います。
ワンカットが10分に渡る超長回しのシーンがあります。驚いてしまい、テープを巻き戻してはかってしまいました。

2002.6.24(月)

後藤組女優面接。オレと後藤ちゃん、そして、酒井あずささんと会う。助監督の小川の推せんで、杉浦組と国沢組に最近出たという30過ぎくらいの色っぽい方。オレはいっぺんで気に入ってしまい、もう彼女で決まりと思い、後藤ちゃんをせっつく。彼はどこかシブシブという感じであったが、一応同意してくれ、これにて、やっと「圭子」役が決まったというわけ。かなりホッとする。
東映化学。加藤義一くんの新作の初号を見る。内容は、深町章監督による『鍵穴』シリーズの一篇かと見まごうほど近似したお話。脚本は岡輝男。なるほどね。
面白かった。まずお話に引っぱる力がある。話が面白いのだ。そして加藤くんの演出が実にていねい。とても好感が持てるのだ。そして、ヒロインを演じた新人の女優さんのひたむきさね。好感度大と言いたい。
ピンク・エンタテイメントとしては、文句のつけようのない面白い映画だった。
女性のアソコに真珠をぬいつけるという荒唐無稽なアイデアが実にいいのだが、その真珠に不老不死の力があるというネタの方が今ひとつ話にうまくからまないというか、浮いていた。そのネタはなくてもよかったんじゃないかな? それともうひとつ。主人公の竹本くんの数十年後の姿をある人物(知る人ぞ知る、シネキャビンの中村さん)がやっていたが、あれも竹本くんにメイクしてもらいやった方が絶対よかったと思うのだ。気になったのは以上2点くらいだね。

2002.6.25(火)

女優面接。今日会うコは、20代前半の若いコ。そんなわけで(また、昨日決まったわけだしね)、後藤組の女優面接というよりは、今後のオレの組に向けてのそれになってしまう。
童顔、巨乳というかなりいいコでね、ま、今後のオレの作品にはぜひ出てもらおうということになる。まだ芸名ないので、仮にユミコとしておこう。
東映化学。山崎組初号。ユミコも見たいというので急遽連れて行く。今の若いコの常でピンク映画見たことないもんね。山崎さんの映画だったら、つまらなくてガッカリさせることもないだろうと思い連れて行ったのだが……。
いや〜、傑作でした。例によって、ヒロインが御灸師(川瀬有希子)というバツグンのアイデアから始まり、ストリッパーの佐々木基子、不感症女の風間今日子ら濃い女たちが、山アワールドを自由にはね回る。女たちは、夢も現実も、欲望も幻想も、余りに自由に行き来するので、一体この映画どこに向かって行こうとするの?−と、一瞬不安がよぎる。しかし最後には、ヒロインの「私は思う、だから私はここにいる」とでも言ってるかのような謎の微笑で物語を終え、見ているものは、奇妙な納得と連帯感を感じニコニコしてしまうという寸法。
役者たちがみんないいというのも、いつもの山ア組。特に女優たちがバツグン。最近好調の風間今日子は増々かっこよく、御灸氏役の川瀬有希子も、オレは知らない人だったが、実にいい。ノリと雰囲気の方。劇中流れるボーカルも彼女の唄と聞いてまたビックリ。そして佐々木基子。首に白いホータイを巻き、手にはいつも牛乳ビン、というたたずまいには、なんか知らんけど圧倒されてしまった(あとで打ち上げの時、山アさんに「どういう意味?」と聞いたら、「あれは不幸な女の象徴なんですよ」ときた。ああ、そうですか、というしかないよね)。4、5年前、オレの映画からデビューした基子だが、昔からうまい人だったが、今や、イヤミなほどうまいよね(そういえば、佐々木基子って芸名は、オレがつけたのだった)。いや〜、スゴイです。
山アさんの映画は今までに7、8本見てると思うけど、今回のヤツが最高ですね。映画の世界を実にノビノビと自由に遊んでいる。いい意味で唯我独尊の人だけど、自由さに増々拍車がかかってきた。山アワールド全開です。
加藤組、山ア組とピンクの新作を続けて見て、あらためてピンクの面白さというものについて考えさせられた2日間でありました。
結論、やっぱり、「ピンクは、面白い」。

2002.6.26(水)

樹組、演出部打ち合わせ。ロケハン。後藤組、酒井あずさも来て、役者リハーサル。